アクティブステレオ法による3次元内視鏡の開発

概要

医療における腫瘍の大きさの計測は,治療方針の決定に重要です.しかし多くの場合,その計測は医師による目視推定に依存しており,個人差による誤差が生じやすいという問題があります. 内視鏡デバイスを用いて腫瘍形状を客観的に計測することは,この問題の解決に向けた大きな一歩となります. さらに,手術ロボットや,医療用AIの学習用途など,内視鏡の3次元計測は重要性が高まっています.

私たちはアクティブステレオ法に基づく3次元内視鏡システムの開発を進めています. 内視鏡の鉗子チャネルに小型パターンプロジェクタを挿入し, 観察対象にパターン光を照射した状態で内視鏡カメラで画像を撮影します. 撮影された画像と投影パターンとの対応を画像処理によって推定し, 三角測量により3次元計測を行います.

パターン投光器:DOEを用いた広画角超小型プロジェクタ

計測対象は生体組織であるため,組織内の散乱(subsurface scattering)によって投影パターンがぼやけることがあります. また,内視鏡環境ではノイズや外乱の影響が通常のカメラ環境よりも大きくなります. これらに対処するため,グリッドパターンのグリッド点をグリッド辺間のギャップで変調するギャップ符号化グリッドパターンと, DOE(回折光学素子)を用いてシャープにパターンを投影できる超小型パターンプロジェクタを開発しました. 本プロジェクタは画角約90度の広角投影が可能であり,広範囲をカバーできます. プロジェクタを鉗子孔に挿入することで, パターンを投影しながら内視鏡撮影を行うことができます.


(左)広画角超小型プロジェクタによる投影パターン(画角約90度) [Furukawa et al., Healthcare Technology Letters, 2025 より]. (右)パターン投影した内視鏡画像(豚の胃の内壁)

深層学習による投影パターンのデコード


3次元内視鏡システムの構成

開発したパターンは,深層学習モデルで「デコード」されます.これにより, カメラからプロジェクタへの対応を,画素単位で求めることができます.

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豚の胃の計測例:(左から)元画像,デコード結果[x座標],デコード結果[y座標],1フレーム形状

マルチフレーム最適化

連続画像からの3次元復元では, ニューラル陰関数曲面表現(Neural Signed Distance Field,Neural-SDF)と 構造化光(SL)投影を統合することで, フレーム間での幾何学的整合性,精度を高める方法を提案してます.


内視鏡・超小型パターンプロジェクタ(鉗子チャネル挿入)・EMセンサプローブを組み合わせたシステム. EMセンサは磁界発生装置に対する位置姿勢を出力する. [Furukawa et al., Healthcare Technology Letters, 2025 より]

下図に処理フローを示します. 各フレームでは,ギャップ符号化パターンをデコードしてピクセルごとの対応マップを取得し, フレームごとにキャリブレーション(カメラ・プロジェクタ姿勢の推定)を行います. その後,全フレームを対象として,カメラ姿勢・プロジェクタ姿勢・表面形状を同時に最適化します.


処理フロー:ギャップ符号化パターンのデコードによる対応マップ取得(256の剰余で可視化), フレームごとのキャリブレーション,全フレームを対象とした形状最適化. [Furukawa et al., Healthcare Technology Letters, 2025 より]

フレームごとの形状復元のみでは,デコードミスによる形状欠けや, フレーム間でのスケール・幾何学的不整合などが生じます. 全フレーム一括最適化では,ニューラル曲面上にアクティブステレオ法によるパターン投影画像と カメラ・プロジェクタ対応マップをレンダリングし,キャプチャ画像およびデコード結果と比較します. これらが一致するように全体形状,カメラ位置,プロジェクタ位置が最適化され, 幾何学的に整合した奥行き画像および形状が得られます.


全フレーム最適化の方法:ニューラル曲面上にパターン投影画像とカメラ・プロジェクタ対応マップをレンダリングし, キャプチャ画像・デコード結果と比較する.不一致が最小となるよう全体形状・カメラ位置・プロジェクタ位置を最適化する. [Furukawa et al., Healthcare Technology Letters, 2025 より]

マルチフレーム最適化の処理例

以下に,全フレーム一括最適化により得られる,フレーム間で幾何学的に整合した奥行き画像と 形状データの例を,複数のin-vivoサンプルについて動画で示します.

サンプル 深度画像 3次元形状
Sample A
Sample B
Sample C
Sample D
Sample E


Publications
Computer Vision and Graphics Laboratory